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達人の「触感」-『鍼狂人の独り言』を読んで


久しぶりのブログ更新となってしまった。皆様のご声援のおかげで、現在、私は複数の団体や組織と共同の教育&研究プロジェクトを抱えていて、多忙な毎日だ。

私の研究プロジェクトの一つに、「『直観&北辰会方式』研究プロジェクト」がある。以前、当ブログでも記事を連載していたので、ご存知の方も多いと思う。

もちろん、プロジェクトは現在でも継続されている。

最近、鍼灸学術団体である北辰会を創始された藤本蓮風会長の御著作「鍼狂人の独り言」(メディカルユーコン)を読了した。

本書は、蓮風会長の過去のブログ記事を編纂されてできた一冊である。

内容としては、鍼医としての心構えからはじまり、日々の診療で思うこと、鍼の効用など、主に後進の指導のために執筆されたものである。

私は、認知心理学者であって、鍼灸師ではない。

それでも、「いわゆる達人といわれる方が、実際の現場でどのように意識を働かせて問題を解決したり、創造性を発揮しているのか」ーこうしたテーマを考えるうえで、達人の著作は大いなるヒントとなる。

現役の鍼灸師や専門学校生だけでなく、鍼灸をよく知らない読者でも本書を気軽に読むことができる。

しかし、蓮風会長の長年にもおよぶ厳しい修行と、患者さんの生死をかけた治療体験から執筆されたものである。

そのため、どのページにしても、言葉が重く、言葉の奥に隠された蓮風会長の真意を汲みとらなくてはならない。

さらに、私の場合、実際に蓮風会長の鍼を体験したことがある。本書を読みながら、そのときの経験を思い出した。あのときの蓮風会長の手の感触を今でもよく覚えている。

患者として感じたことは、やはり、蓮風会長の手の感覚は特異なものであるとしかいいようがない。特異なものであるから、感触を言語化して、簡単に他人に伝えられるものではない。

まして、その感触を人工知能ロボットに再現させることも不可能に近い。

それでも、「北辰会方式」という鍼灸理論と、私が研究し続けている「現場主義意思決定(NDM)」から、達人といわれる人たちがどのように意識を働かせているのかを伺い知ることができるのである。

まだまだ研究は続くー。

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