鍼と気の認知科学(1)BBC 'Science of Acupuncture'


「名鍼医(=難病を治す達人級の鍼灸師)」の直観や思考プロセスを認知科学的に考察していくうえで、絶対に外せないテーマがある。それは「気とは何か」ということである。

現代の心理学、脳神経科学、情報工学といった分野の研究者たちは、話の大前提として「心とは何か」という命題に答えることはできない。まして、「気」という概念とは完全に無縁である。認知科学者たちは、気を科学的に証明できない。だから、気の話をすると、オカルトや宗教がらみの話とみなす人もいる。

しかし、現実問題として、ある程度のキャリアをもつ鍼灸師たちは患者の気の異変を察知し、適切な経穴(ツボ)を見つけ出して鍼を打っている。鍼の効果は、世界中の人たちが体験している(私も含めて)。

今回紹介するのは、英国のBBCで放映されたドキュメンタリー番組 'Science of Acupuncture(鍼の科学)'だ。この冬休み、海外ではどのように鍼が認識されているのかを知るために、YouTubeで観ることにした。

物理学者で、ブリストル大学教授であるキャシー・サイクス(上の写真の左の女性)は、この番組のリポーターを務め、中国に渡って本場の鍼を見聞し、体験することになる。ちなみに彼女は、大英帝国勲章OBE(Order of the British Empire)を受賞されている。

中国で、彼女は何度も度肝を抜かされることになる。21歳の工場労働者の女性が、心臓の手術を受けることになった。その際、医師たちが麻酔薬の代わりに手首に鍼を打ち、女性は意識があるまま手術が行われたのである。もちろん、患者の女性は痛みを一切感じない。さらに驚くことに、従来の麻酔薬を使うよりも回復が早く、術後、わずか二日で退院することができた。サイクスは、その一部始終を見学していた。

英国に戻ったサイクスは、鍼の本質が「気(邪気)をコントロールすることにある」と気がつく。そこで仲間の科学者たちとある実験を試みた。

それは、被験者に鍼を打った後、MRIで全身の変化を調べてみることであった。彼女らは、コンピュータのスクリーン上に「気の流れ」を映すことができると考えたのだ。しかし、実際に見えたのは、被験者の脳の一部が活性化された動画だけで、気の流れを最後まで知ることはできなかった。

結局、「気とは何か」という問いの回答を得ることもなく、番組は終わった。

現代科学でも説明できない気の存在。科学的に証明できないからといって、鍼のすべてを否定するのは簡単だ。

しかし、認知心理学者である私の目からして、名鍼医がどのように患者の気も含めて心身の微妙な変化を察知し、経穴を見つけ出し、一本の鍼で難病を治していくのか。これは、まさに認知心理学的な一大研究テーマである。

現在開発中の認知トレーニング方法を鍼灸師用に進化させることで、名鍼医を一日でも早く量産し、西洋医学でも治せない患者さんの難病を治療していくことに間接的に貢献できると考えている。

気とは何か。名鍼医はどのように患者の心身の異変を察知しているのか。どうやったら名鍼医になれるのか。どれも大きな研究テーマだ。

最後に、YouTubeで見つけた番組をアップしておく。英語の勉強もかねて観てみるといい。

https://www.youtube.com/watch?v=D53UwyJWa3w

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