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日本の人工知能研究は『第二の戦艦大和』か?


先日、日本の人工知能開発の最先端を走ってきた「ドワンゴ人工知能研究所」が創設後4年半で閉鎖されることになった。

KADOKAWA社から潤沢の研究費を受け、東京大学本郷キャンパスに隣接する研究所であった。

2015年、今から4年前の夏、箱根で開催された日本認知科学会の夏期講習会に参加したときのことだ(上写真)。

そのときのテーマが「脳科学と人工知能」であった。

ドワンゴの研究者がメイン講演者で、まさに「時の人」だったことをよく覚えている。

夜の親睦会(飲み会)では、彼の周りに有名大学の教授、研究者、大学院生などが群がっていた。

当時、私は日本認知科学会を通して、自分の専門の現場主義意思決定(NDM)理論やマクロ認知を日本の学術界に知らせ示したいと考えていた。

しかし、(今でもそうだが)誰一人としてNDMに興味をもってくれる人はいなかった。

だから、私はイジケて、ふてくされて、ぽつんと一人でビールを呑んでいた。

その後、私はNDM理論にもとづく考察と、「我が学問の師父」ゲイリー・クライン博士の教えから、2017年に拙著『人工知能を超える人間の強みとは』(技術評論社)を上梓した。

「人間の直観的思考と人工知能のアルゴリズム的思考は極度に異質であるから、人工知能が完全に人間のような思考をすることができない」-これが本書の主張である。

ところで、クライン博士も軍事科学研究の一環で人工知能の開発に関わったことがあるという。

しかし、米軍の研究者たちがどのようにプログラミングしても、人間のような意識があり、全知全能な人工知能は開発できなかったという。

また、スノーデン氏によるハッキングの問題が生じたことから、米軍は諜報活動や情報管理に関して、今でも人工知能に頼ることはないらしい。

米軍の失敗は今から20年くらい前のこと。ということは、日本の人工知能研究は少なくともアメリカより20年は遅れていることになる(じっさいは、30年以上の遅れだろう)。

欧米で「人間工学(Human Factors and Ergonomics)」という学問が生み出されたのは、今から100年以上も昔のことである。

世界大戦がはじまる前に、エンジニアや心理学者たちが、

「人間がどのように戦闘機、戦車、戦艦、兵器を扱うべきか」

「実際の戦場でどのように機械が作動して人間に影響を及ぼすのか」

などを考えることから、この学問が誕生し、発展してきた。

NDMおよびマクロ認知研究の重要な役割として、この「人間と機械の関係」を考えることが挙げられる。

第二次世界大戦前の旧日本海軍は日露戦争での勝利から己惚れてしまい、戦況の変化、敵国の戦略・戦術の変化が見抜けなかった。

当時の日本人エンジニアや将校たちに、人間工学という学問を知っている人はいない。

その結果が、戦艦大和の建造なのである。それは誰が考えても無謀な計画であり、莫大な建造費と人命を失った。

歴史は繰り返すというが、日本の人工知能研究が『第二の戦艦大和』にならないことをせつに祈るー。

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