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鍼と気の認知科学(4)気と直観を読む技術-複雑なものを単純にする


鍼灸における「気」とは何か?分野を問わず、エキスパートや達人とよばれる人たちの「直観」とは何か?

名鍼医とよばれる鍼灸師たちは、どのように気を察知し、直観や意識を働かせて病気を治しているのか?どう学び、修行をすれば名鍼医になれるのか?

こうした疑問に答えるべく、今回の研究プロジェクトがはじまった。

気そのものは肉眼で見ることはできない。もちろん、臨床歴50年くらいになれば、患者さんの気やオーラなどが見えるという人も稀にいる。それでも、気そのものはまだ科学的に証明できていない。

しかし、気にも性質があり、良い気もあれば、悪い気もある。とくに悪い気は邪気とよばれ、体の特定の部分に停滞する。

その結果、体の表面の体温が微妙に上がったり、下がったり、乾燥したり、湿ったり、皮膚が硬直したり、弛んだり、赤くなったり、黒ずんだり、さまざまな変化が生じる。

気がもたらす微妙な体の変化を、ベテラン鍼灸師たちは見逃さない。そのための技術が四診(望聞問切)であり、体表観察でもある。

最終的には、ツボを一か所か、数か所にしぼり、鍼を打つ。

認知心理学、NDM研究も同じである。

私たちNDM研究者は、エキスパートの直観そのものを見ることができない。気と同様に、直観そのものを科学的に証明することが難しい。

でも、私たちの誰もが日常生活で直観の働きを体験している。新しいアイディアが閃いたり、仕事での問題を解決できたり、感覚的に他人を評価したりしている。

つまり、エキスパートの直観は、彼・彼女が何かを判断し、決断したときに働くといえる。

それならば、その判断の瞬間を思い出してもらい、どのように決断を下したのかをインタビューすればいい。もし可能ならば、現場で行動を観察させてもらえばいい。

これが現場主義意思決定(NDM)理論の考え方である。そのための技術を、認知タスク分析とよぶ。

気と直観。両者そのものを見ることができなくても、何らかの形になって現れる。その現象の奥に隠された性質や本質を見抜くのである。

本来、センスメイキングとは、人が状況の変化や目の前に現れてくる問題をどのように察知するのか、その思考のメカニズムを説明するものである。一言でいえば、察知力ということになる。

もう一つの意味は、エキスパートが長年の経験で培ってきた直観のメカニズムを、研究者が解釈していく作業のこともいう。

あたかも、複雑に絡まった糸をほぐしていくような作業のように。

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